従業員が仕事で海外に出かける場合、渡航先で思わぬ感染症が流行していることがあります。
海外出張や海外赴任が決まったら、備えておきたい感染症と予防接種の情報についてまとめました。
海外渡航のために予防接種が必要なときとは?
日本とは環境の違う諸外国では、国内ではあまり見られない感染症が発生しています。また、日本にいる時よりも感染の危険が大きい病気もあり、気を付けるべき感染症も異なってきます。
逆に、感染症の中には海外よりも日本国内の方が感染者の多いものもあるため、渡航する従業員が感染症を持ち込み、現地で感染源となってしまう場合もあります。
これらの全ての感染症に対して予防接種があるわけではありませんが、予防接種のある感染症に対しては、予防接種を受けることで、従業員本人や家族・同僚など周囲の人々が感染症にかかるリスクを下げることができます。また、渡航先での業務へのリスクを下げるだけでなく、渡航先で、あるいは帰国時に従業員が感染源になってしまうことも防ぐことができます1)。
必要な予防接種は人により異なります
具体的にどの予防接種が必要になるのかは、渡航先、渡航期間、渡航形態、出張に赴く従業員の年齢、健康状態、予防接種歴などにより異なります1)。
最終的にどの予防接種を受けるかは、トラベルクリニック等で相談のうえ、出張する従業員本人が自分で決めることになります1)。家族を連れて海外赴任する場合には、家族の予防接種についても検討する必要が出てきます。
信頼できるトラベルクリニックや渡航先の感染症情報、それぞれの予防接種についての情報等を従業員に提供することで、本人が予防接種についてきちんと理解できるようサポートすることが大切です。
海外渡航のための予防接種
予防接種 | 対象 |
黄熱 |
感染リスクのある地域に渡航する人 |
A型肝炎 |
途上国に長期(1カ月以上)滞在する人、特に70歳以下 |
B型肝炎 |
血液や体液に接触する可能性のある人 |
破傷風 |
冒険旅行などでけがをする可能性の高い人 |
狂犬病 |
イヌやキツネ、コウモリなどの多い地域へ行く人で、特に近くに医療機関がない地域へ行く人 |
ポリオ |
流行地域に渡航する人 |
日本脳炎 |
流行地域に長期滞在する人(主に東南アジアでブタを飼っている農村部) |
麻疹・風疹 |
海外へ渡航しない人も含めて、すべての人 |
髄膜炎菌 |
流行地域に渡航する人、定期接種実施国へ留学する人 |
新型コロナウイルス感染症 |
海外へ渡航しない人も含めて、すべての人 |
- 定期の予防接種については、予防接種スケジュール(国立感染症研究所)を確認し、年齢相応のものがすべて終了しているか、渡航前に必ず確認しましょう。
- 日本国内で承認されているワクチンについては、日本で接種可能なワクチンの種類(国立感染症研究所)を参照ください。
厚生労働省検疫所 海外渡航のためのワクチンより
なお、上記以外にも、海外で承認され流通しているワクチンで、日本国内では承認されていないワクチンがあります(腸チフスワクチン等)。なお、このような国内未承認のワクチンは、一部のトラベルクリニック等では接種が可能ですが、副反応により健康被害が発生した場合の救済制度は対象外となりますのでご注意ください2)。接種にあたっては、本人と担当医でよく相談してもらうようにしましょう。
入国には予防接種証明書を要求する国も
渡航先によっては、特定の疾病の予防接種証明書が入国の条件になっていることもあります。詳細は、渡航先の在日大使館や近隣の検疫所などに問い合わせて、速やかに出張先の情報収集を開始しましょう1)。
渡航先の感染症情報の調べ方
海外における感染症の流行状況は、厚生労働省検疫所のウェブサイトにまとめられています。
行き先の国・地域の感染症情報を調べる場合
厚生労働省検疫所のトップページ
「国・地域別情報」をチェック
行き先の国で注意すべき感染症や媒介動物についての情報、医療水準に関する情報などが確認できます。
最新の感染症に関する情報を調べる場合
厚生労働省検疫所のトップページ
「海外感染症発生情報(新着情報)」をチェック
特に重要な感染症(黄熱・デング熱・エボラウイルス病など)について、各国の発生状況や国際機関からの情報が確認できます。
予防接種の計画は早め早めに
海外渡航時に必要なワクチンの種類や接種日程については、トラベルクリニックや病院の渡航外来等の医療機関を受診し相談することになります。近隣の医療機関が必要な予防接種に対応していない場合には、あらかじめ従業員が利用しやすい予防接種実施機関を調べておくとよいでしょう。
医療機関は厚生労働省検疫所ウェブサイトの予防接種実施機関データベースでも検索可能ですが、すべての実施機関が網羅されているわけではありません。掲載されているのは予防接種実施機関として登録を希望した医療機関の情報のみとなります2)。
予防接種の種類によっては、複数回(2~3回)接種しなくてはならないものもありますので、できれば出発の3カ月以上前から医療機関と相談を始めるのが安心です1)。
このように、海外出張や海外赴任にあたっては、感染症に関する最新の情報を収集し、対策について知っておくことが重要です。
また、予防接種を受ける場合にもある程度の期間がかかります。海外と関わる業務が多い企業などでは、平時から社内で情報提供を行い、産業医とともに社内体制を整えておくことも必要ではないでしょうか。
- 1)厚生労働省検疫所 海外渡航のためのワクチン
- 2)厚生労働省検疫所 予防接種実施機関