”細菌性肺炎”

肺炎は日本人の死因の第5位1)

近年わが国では生産年齢人口が減少し、労働力を確保するため従業員の雇用延長などを積極的に図らなければならなくなりました。高齢になった従業員の健康状態が悪化すると、生産性の低下や健康保険料が上昇するなど、企業負担の増加につながります。このため企業は、高齢従業員の健康維持に積極的に関与する必要があります。肺炎は高齢の従業員にとって身近な病気であり、予防が大切です。

肺炎では、細菌やウイルスへの感染、誤嚥(食べ物などが気管に入ってしまうこと)などが原因で肺に炎症が起こります2)。早期に適切な治療を受けなければ重症化し、特に高齢者や免疫が低下した人が罹患りかんすると死に至る危険性もあります。2019年のわが国の肺炎による死亡者数は9万5,518人に上り、がん、心疾患、老衰、脳血管疾患に次いで5番目に多い死因となっています1)

日本では細菌性肺炎を含む市中肺炎(病院外で日常生活を送っている人に発症した肺炎)の15歳以上の患者数は年間188万人(市中肺炎以外も一定数含まれる)で、このうち70%が入院し、年間約7万4,000人が死亡していると推定されています3)

肺炎のうち最も多いのが細菌感染を原因とする細菌性肺炎です。細菌性肺炎の主な症状は咳や発熱、胸痛、呼吸困難、痰などです。咳や発熱は風邪でも見られますが、風邪の場合、数日で軽快するのに対し、肺炎の場合は咳や高熱、息苦しさや胸痛などの症状が長く続きます。ただし、高齢者では典型的な症状が見られないことがあるため、「なんとなく元気がない」、「食欲が落ちた」など普段と様子が違うときには肺炎を疑うことが必要です。

細菌性肺炎の原因となる細菌には様々な種類がありますが、最も高頻度に見られるのが肺炎球菌で、細菌性肺炎感染者の1/3~1/4を肺炎球菌による肺炎が占めています。次に多いのがインフルエンザ菌です4)。肺炎球菌の感染による肺炎感染者数は年間約100万人、死亡者数は年間約3万人と推定されています5)

市中肺炎778例の起炎菌
図:市中肺炎778例の起炎菌

細菌性肺炎の主な感染経路は、咳やくしゃみ、会話などで発生する飛沫を介した感染(飛沫感染)です。
なんらかのきっかけで細菌が喉から気管支を通り、肺胞まで到達すると肺炎が引き起こされます2)

細菌性肺炎の感染経路
図:細菌性肺炎の感染経路

ワクチン接種で発症・重症化を防ぐ

細菌性肺炎の予防には手洗いやうがい、咳エチケットなどに加え、歯磨きなどで口の中を清潔に保つことが重要になります。また、低栄養になると免疫力が低下し肺炎にかかりやすくなるため、バランスの取れた食事を心がけるとともに、誤嚥しないよう食べるものや食べ方に注意することが必要です。

さらに、肺炎球菌ワクチンを接種することで細菌性肺炎の中で最も多い肺炎球菌による肺炎の発症を予防し、重症化リスクを防ぐことが期待できます。
また、インフルエンザに罹患し一旦軽快した数日後に細菌性肺炎を続発する二次性細菌性肺炎があります6)。肺炎球菌ワクチンに加えてインフルエンザワクチンを接種することが有用と考えられています7)

高齢者の慢性肺疾患患者に対するインフルエンザワクチン、あるいは肺炎球菌ワクチンを単独接種した場合における肺炎の入院リスクを調査した結果、インフルエンザワクチン接種者では52%減少、肺炎球菌ワクチン接種者では27%減少となりました。また、死亡リスクはそれぞれ70%と34%減少しています。
そして、両ワクチンを併用すると入院リスクは63%減少し、死亡リスクは81%減少するという、さらなる軽減効果が認められるとのデータも報告されています7)

高齢の慢性肺疾患患者に対するインフルエンザワクチンと肺炎球菌ワクチンの肺炎に対する効果(接種者と非接種者の比較)
図:高齢の慢性肺疾患患者に対するインフルエンザワクチンと肺炎球菌ワクチンの肺炎に対する効果(接種者と非接種者の比較)
  • 1)厚生労働省 令和元年(2019)人口動態統計 第6表 性別にみた死因順位(第10位まで)別 死亡数・死亡率(人口10万対)・構成割合
  • 2)国立循環器病研究センター循環器病情報サービス 肺炎…予防・治療のポイント
  • 3)日本感染症学会 症状からアプローチするインバウンド感染症への対応~東京2020大会にむけて~ 感染症クイック・リファレンス 21.細菌性肺炎
  • 4)石田直.呼吸器ケア.2003;1(4):436-443.
  • 5)厚生科学審議会感染症分科会予防接種部会 ワクチン評価に関する小委員会報告資料1-2.(平成23年3月11日)
  • 6) 成人の新型インフルエンザ治療ガイドライン第2 版2017 年11 月 平成28~29 年度 日本医療研究開発機構 新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業
    新型インフルエンザ等への対応に関する研究
  • 7)Kristin L.et al.Vaccine.1999;17:S91-93.
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