肺炎を合併し重症化することも
麻しんは、麻しんウイルスによって引き起こされる感染症です。一般には「はしか」という病名のほうが馴染み深いかもしれません。
麻しんウイルスの感染経路は、
- 病原体を含む飛沫の水分が蒸発し、飛沫核となって空気中を漂うことによる感染(空気感染)
- 咳やくしゃみ、会話などで発生する飛沫を介した感染(飛沫感染)
- ウイルスが付着したものに触れた手で口や鼻、眼などの粘膜に触れることでの感染(接触感染)
があります。
麻しんウイルスは、非常に強い感染力を持つことが知られています。
麻しんの感染経路
麻しんウイルスは1人の感染者から免疫のない16~21人に感染させるほどの強い感染力を持ち1)、インフルエンザや新型コロナウイルス感染症2)の感染力を凌ぎます。このため、1人感染者が出ると、周囲に集団感染を起こしやすいと考えられます。
麻しんの感染力
麻しんウイルスに感染すると、約10日前後の潜伏期を経て、発熱、咳、くしゃみ、鼻水など風邪のような症状が現れます。そして2~4日程度経ち、一度熱が下降傾向になった後、今度は39度以上の高熱とともに赤い発疹が身体中に広がります3)4)。
通常はその後数日~5日程度で熱が下がり、発疹も次第に消え、合併症がない限り7~10日後には主症状はほぼ回復します3)4)。
麻しんウイルスに感染すると、一時的に免疫力が下がるため4)、肺炎、中耳炎を合併しやすく、0.2%の割合で脳炎が発症するというデータもあります。(下表)
また、麻しん罹患者10万人に1人3)と頻度は高くないものの、麻しんウイルスにより、7~10年無症状の期間を経て亜急性硬化性全脳炎(subacute sclerosing panencephalitis:SSPE)を発病することもあります。SSPEは、発病すると、次第に脳機能が失われ死に至ることが知られています3)。
麻しんに感染するとウイルスに対する免疫ができます。この免疫は一生持続するといわれています。5)
1999(平成11)~2000(平成12)年大阪麻しん流行時の麻しん罹感染者における合併症者
麻しんの合併症 | 人数 | 割合(%) |
なし | 3,076 | 67.4 |
脳炎 | 9 | 0.2 |
肺炎 | 692 | 15.2 |
腸炎 | 143 | 3.1 |
中耳炎 | 98 | 2.1 |
クループ | 35 | 0.8 |
その他 | 511 | 11.2 |
総計 | 4,564 |
2001(平成13)年度大阪感染症流行予測調査会報告
感染予防にワクチンを
感染力の強い麻しんウイルスは、くしゃみや咳からの飛沫だけでなく空気感染もするので、マスクや手洗いだけでは予防できません。もっとも有効な予防手段はワクチン〔麻しんあるいは麻しん風しん混合ワクチン(MRワクチン)〕の接種です。MRワクチンを接種することによって、95%程度の人が麻しんウイルスに対する免疫を獲得することができると言われています。また、2回の接種を受けることで97~99%の人が免疫を獲得することができます4)。
しかし、成人でも2回接種を実施できていないケースがあります(下表)5)6)。麻しんの罹患歴がなく、2回の予防接種歴が明らかでない場合は、追加の予防接種を検討することが良いと考えられています。7)
麻しんワクチンの接種歴
1972年9月30日以前の生まれ | 接種なし |
1972年10月1日〜1990年4月1日生まれ | 1回接種 |
1990年4月2日以後の生まれ | 2回接種 |
かつて麻しんは、「子供のとき、誰もがかかるありふれた病気」でした。今でも、「ワクチンは打つ必要がない。自然にかかったほうがいい」と考える人がいます。
しかし麻しんは、合併症を伴い、場合によっては死亡することもある病気です。そのうえ非常に強い感染力を持つウイルスであるため、社内で誰か1人でも感染者が出た場合に集団感染のリスクが非常に大きいと考えられます。このため、企業規模で「社員の抗体保有率がどの程度あるのか」や、「ワクチンの接種歴が2回あるか」など免疫状態を把握し、免疫を持たない方が多い場合にはワクチン接種を導入するなど、適切な感染対策を取っておくことが重要となります。
- 1)国立感染症研究所 感染症情報センター わが国におけるプレパンデミックワクチン開発の現状と臨床研究(2008.9.18)
- 2)WHO Information Network for Epidemics: Covid-19-a global pandemic What do we know about SARS-CoV-2 and COVID-19?: 05 June 2020
- 3)国立感染症研究所 感染症情報センター 麻しんQ&A
- 4)国立感染症研究所 麻疹とは
- 5)多屋馨子. 保健の科学. 2012; 54(12): 802-807.
- 6)多屋馨子. 麻しん・風しん含有ワクチン接種率と麻しん・風しんの発生動向. 厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会 予防接種基本方針部会 平成25年8月9日(金)
- 7)厚生労働省 麻しんについて