サクラファインテックジャパン 企業内でのワクチン接種の取り組み
事業所内接種と費用補助の推進で感染症の発生リスクが低減

病理検査機器メーカーのサクラファインテックジャパン株式会社は、2012〜13年の風しんの全国的な流行を契機に、他の企業に先立って、風しんワクチンの事業所内接種を開始しました。その他の予防接種についても、接種費用の補助や事業所内接種を積極的に進めています。その背景には、「医療機関に出入りする社員は、ワクチンで防げる疾患の感染源となってはならない。感染による業務停滞で医療に迷惑をかけてはいけない」という強い思いがあったといいます。同社の予防接種制度の取り組みについて、代表取締役社長兼CEOの石塚 悟氏をはじめ、取締役管理本部長の生坂敬行氏、人事・総務部担当部長の谷口和行氏にお話を伺いました。

サクラファインテックジャパン株式会社

代表取締役社長兼CEO  石塚 悟氏

会社概要

江戸時代初期の薬種商をルーツに持つ「サクラグループ」に属し、病理学的検査分野における標本作製機器などの製造・販売を行っている。2001年10月設立。資本金9900万円。現在、社員数は179人を数える(2021年10月現在)。サクラファインテックUSA、サクラファインテックヨーロッパおよび中国のグループ会社である櫻花医療科技(泰州)有限公司とともに、“がん診断を進展させる”というミッションにグローバルで取り組み、世界150ヵ国以上の顧客にソリューションを提供している。また2019年にはマレーシアに初の海外拠点となる「アジア・リージョナルオフィス」を開設した。

対象となるワクチンの種類を広げる

サクラファインテックジャパン(株)では、2013年から希望者を対象とした麻しん風しん混合(MR)ワクチンとインフルエンザワクチンの予防接種制度を導入しました。医療機関と連携して、接種費用の全額補助や事業所内接種を進め、2014年からは成人用肺炎球菌ワクチンも追加しました。2016年からは一部補助で帯状疱疹ワクチン(8,000円の自己負担)も対象とし、さらにワクチンの種類を広げました。接種の対象は、正社員のほか、派遣社員、次年度の入社内定者も包括しています。

※帯状疱疹ワクチンは50歳以上の方が対象です。

感染症対策は企業の社会的責任

当社が予防接種制度を導入するきっかけとなったのは、2012年から翌年にかけての風しんの流行です。妊婦が風しんにかかると、おなかの赤ちゃんに、目や耳の障害、心臓の病気などの影響が出る恐れがあり(先天性風しん症候群:CRS)、当時大きなニュースとして取り上げられました。以前から基本的な感染症対策には取り組んでいましたが、「医療機関に出入りする企業として、社員がワクチンで防げる疾患に感染したり、誰かに感染させたりしてはならない。また、感染により業務が滞ることで医療に迷惑をかけてはならない」という思いがより強まりました。当社では女性社員が全体の約4割を占めており、産休・育休を取得する社員も多く、社内では身近に妊婦がいる状況です。妊娠中の女性は風しんワクチンの接種が受けられないため、どこに感染者がいるか分からない状況は危険です。社内だけでなく社外においても、例えば公共交通機関などで気づかないうちに妊婦と接触する可能性もあります。妊婦をこのような風しんから守ることも、制度導入理由の1つとなっています。知り合いの感染管理看護師のアドバイスもあり、接種費用の全額補助を導入しましたが、自ら医療機関に赴く社員は少数でした。そこで、本社で事業所内接種を導入することにしました(写真1)。地方の営業所の社員は費用補助のみで、各自で医療機関に行ってもらっています。

予防接種はあくまで希望者にするものと考えています。社員には、朝礼や社内コミュニケーションツールの掲示板などを通じてワクチンのメリットとデメリットの説明を十分に行い、ワクチンについて十分理解、納得したうえで希望者のみに接種を受けてもらうようにしています。社内では、ワクチン接種者と非接種者が相互に認め合う環境ができているのではないかと思っています。

現役世代の発症も多い帯状疱疹

帯状疱疹ワクチンの接種制度は、2016年から始めました。当時、帯状疱疹を発症して痛みに悩んでいる社員の様子を聞いて、帯状疱疹は高齢者の方だけでなく現役世代の発症も多いことを理解し、帯状疱疹ワクチンも制度対象に追加しました。また、成人用肺炎球菌ワクチンの追加については、それまで会社を休んだことのなかった80歳を超えた高齢社員が肺炎で2カ月にわたり休職したことがきっかけとなりました。65歳以上の人は自治体の接種費用の助成で接種することも可能ですが、当社には60歳を超えるベテラン社員が多いこともあり、65歳までの間をカバーする意味もありました。

風しん抗体の集団免疫率は社員の80%以上

8年間の接種実績を振り返りますと、MRワクチン接種者は、開始した2013年は77人と多く、2年目以降は平均30人弱で推移していましたが、2018〜19年には風しんの再流行や会社からの啓発活動の効果もあって社員の意識が高まり、追加接種を希望する社員がそれまでの2倍近くに増えました。MRワクチンの接種希望者の多くは、本邦で風しん抗体価の低い世代に該当する成人男性でした。2016年以降、風しん抗体の集団での保有率(集団免疫率)は社員の80%以上を維持しています。また、インフルエンザワクチンの接種率は70%を超える年が多くなっています。

感染症に対する社員の意識が向上

予防接種制度導入後の社員の反応としては、導入当初は「会社で予防接種を受けられるうえ費用助成もあり、ありがたい」というものでしたが、次第に変化がみられ、「感染症対策は医療関連企業の社会的責任である」という意識が芽生えてきていると思います。感染症に対する社員の知識も格段に向上しました。

予防接種により感染症の発症リスクが低減

予防接種制度を導入したメリットとしては、社内で風しん、肺炎、帯状疱疹の発症者が出ていないことです。インフルエンザを発症するケースはみられますが、軽症で済んでいます。また、社員の感染症に対する意識の向上が、後述の新型コロナウイルス感染症対応の施策をスムーズに推進できた理由だと思います。

感染症BCPの策定が新型コロナウイルス感染症対策に役立つ

2016年には、東京都福祉保健局、東京商工会議所、東京都医師会による「職場で始める!感染症対応力向上プロジェクト」に参加し、知識と実践を網羅した感染症対策を社内に定着させることができました。この中で、実際に感染症が流行した場合や社員が感染した場合にも備える必要があると考え、感染症BCP(事業継続計画)に取り組みました。感染症BCPでは、インフルエンザやノロウイルス感染症のほか、中東呼吸器症候群(MERS)なども想定していました。また、感染症流行時の具体的な対応策として、社員の衛生管理の徹底や在宅勤務が有効と考えていました。


2020年、新型コロナウイルス感染症が発生しましたが、感染症流行時に取るべき行動を事前に把握できていたので、感染症BCPに基づき、迅速に対応策を実施することができました。早い段階から発熱者の出社禁止などの措置を行い、電話会議システムなどテレワークを推進しました(写真2)。オフィスと自宅とで勤務場所を分けてシフトを組むことで、感染防止と業務継続の両立を図ることができていると思います。2021年5月からは、社員が安心してワクチン接種できるように、本人と家族の新型コロナワクチンの接種時や接種後の副反応発生時に取得できる特別休暇制度を導入しました。そして、2021年夏に新型コロナワクチンの職域接種を実施し、サクラグループ他で約760人が接種を完了しました。

事業所内接種が最も効果的

自分の会社の社員から感染者を出さないことを実現するためには、予防接種が有用と考えます。ただ、啓発により個人の意識を変えて、社員自らがワクチン接種のために医療機関を受診するという行動まで持っていくことは非常に困難であり、やはり企業の参画が重要だと考えます。当社の経験から、接種費用の補助だけでは十分ではなく、職場で勤務時間内に接種できる事業所内接種が、社員の接種を促進するために最も効果的な方法であると思います。感染症対策についての社会的意義や価値が、多くの企業や経営者の方々に伝わることを願っています。

写真1. 社内でのワクチン接種の様子
サクラファインテックジャパン 社内でのワクチン接種の様子
写真2. 感染対策のされた従業員の共有スペース「あうんテラス」
サクラファインテックジャパン感染対策のされた従業員の共有スペース「あうんテラス」

職場で始める!感染症対応力向上プロジェクト

Hand in Hand 二度と流行を起こさない。風しんの知識を伝え、みんなで命を守る社会へ

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