いまさら聞けないワクチンの話

ワクチン・予防接種とは?

一度病気(感染症)にかかると、その感染症に罹患りかんしにくくなったり、罹患しても症状が軽く済むことがあります。これは、病原体に対するヒトの抵抗力、すなわち免疫力が獲得されたことによるものです。

予防接種(ワクチン)を受けるとその感染症に対する免疫が作られ、感染症の発症もしくは重症化を予防することができるのです。

ワクチンは、主に生ワクチン、不活化ワクチン、トキソイドに分けられます。生ワクチンは病原性を弱めた病原体を接種するものです。不活化ワクチンは無毒化した病原体やその一部を使用するもので、トキソイドは病原体の毒素を取り出し、毒性を失わせたものです1)

  • 生ワクチン:麻しん風しん混合(MR)ワクチン、風しんワクチン、BCGワクチンなど
  • 不活化ワクチン:インフルエンザワクチン、日本脳炎ワクチン、狂犬病ワクチンなど
  • トキソイド:ジフテリアトキソイド、破傷風トキソイド

“集団免疫”が職場を守る

「集団免疫」とは、集団の構成員の一定数が、ある感染症に対する免疫を獲得すると、集団の中に感染患者が出ても流行が阻止され、その感染症の蔓延を防げるという考え方です2)。インフルエンザや風しんなどの感染症が流行すると、多くの欠勤者が発生して業務に支障を来すため、企業において大きなリスクとなり得ます。このリスクを低減させるためには、従業員を感染症から守らなくてはなりません。集団免疫を持つことにより、基礎疾患など何らかの理由で予防接種が受けられない人に対しても、感染の危険性を下げることができます。

どのくらいの人が免疫を獲得すれば感染症の蔓延を防ぐことができるかは、病原体の感染力により異なります。風しんの場合、集団の83〜85%の人が免疫を獲得すれば、集団内での感染拡大を阻止できるといわれています3)

集団免疫による感染拡大阻止イメージ
図:集団免疫による感染拡大阻止イメージ

ワクチンによる免疫の維持期間(抗体陽性持続期間)

ワクチン接種後の抗体陽性持続期間については、それぞれのワクチンで違いがあります。
例を挙げると、

  • インフルエンザワクチン:インフルエンザは、毎年変異しながら流行するため、季節性インフルエンザワクチンの適切な接種が必要です。その効果は、接種後2週間から5カ月(基礎疾患の有無、流行ウイルスの変異程度によって変動あり)と言われており、たとえワクチン株が前年と同様のものであっても、毎年の接種が必要です4)5)
  • 風しんワクチン:2回接種の場合、個人差はありますが、20年近く持続するとされています6)
表:ワクチンによる免疫の維持期間

事業所内接種は計画的に~ワクチンは短期間での増産が困難~

ワクチンは、原材料となるウイルスや細菌などを実際に培養して製造されるため、一般の医薬品に比べて、生産に時間を要します。
また、無毒化や不活化が適切にできているか、想定通りの効果が期待できるかなどを製造ロットごとに確認する必要があります。そのために製造会社内での品質管理試験、および品質のダブルチェックとして国家検定を受けます8)。このため、製造から市場への出荷までに時間を要し、短期間での増産が難しくなっています。

事業所内接種の場合、必要数量分のワクチンを確保できるよう、早めに計画を立てましょう。

健康被害が生じた際は救済制度を利用

病気の治療に使う薬の主な作用を主作用といい、主作用とは異なる別の作用や、体に良くない作用のことを「副作用」といいます。ワクチンの場合には、ワクチンの投与(接種)によって体に免疫反応が起こり、それによって感染症にかかることを防ぐ免疫ができます(主作用)。この時に免疫ができる以外の反応が発生することがあるので、医薬品による副作用とは分けて「副反応」という用語が用いられます9)

ワクチンによる副反応については、ワクチンの種類によっても異なります。接種局所の発赤(赤み)、腫脹(腫れ)、硬結(しこり)などが接種を受けられた方の数%~数10%に起こりますが、通常2~3日で消失します。そして、ワクチンの種類によっては、極めてまれ(100万から数100万人に1人程度)に、脳炎や神経障害などの重い副反応が生じることもあります10)。アナフィラキシー等の重篤かつ緊急的対応が必要な副反応は、接種後直ちに(30分以内に)生じることが多いため、接種後はその場でしばらく(30 分程度)様子をみることが必要です11)

わが国における予防接種には大きく分けて2つの制度があり、予防接種法に基づき実施される「定期接種」と予防接種法に基づかない「任意接種」があります。

定期接種による健康被害が発生した場合には、予防接種法による救済給付を受けるための制度があります。その健康被害が接種を受けたことによるものであると厚生労働大臣が認定したときは、居住地の市町村により給付が行われます12)

また、任意接種によって健康被害が起こったときは、独立行政法人医薬品医療機器総合機構法による救済制度が設けられています。厚生労働省が設置した外部有識者で構成される薬事・食品衛生審議会における審議を経て、支給の可否が決定されます13)

  • 1)一般社団法人日本ワクチン産業協会 2020 ワクチンの基礎 ワクチンの製造から流通まで ワクチンの製造
  • 2)Oxford Vaccine Group, University of Oxford. 2017年12月12日
  • 3)砂川富正.臨床とウイルス.2016;44:40‒46.
  • 4)国立予防衛生研究所学友会編.ワクチンハンドブック.1994;丸善
  • 5)予防接種ガイドライン等検討委員会: インフルエンザ・肺炎球菌感染症(B類疾病)予防接種ガイドライン2020 年度版 公益財団法人予防接種リサーチセンター:
  • 6)国立感染症研究所 感染情報センター風しん予防接種ガイドライン-任意接種を実施する医師のために 1.基礎的知識 (3)風しんワクチンの効果
  • 7)干場勉ほか.日本産科婦人科学会雑誌.1987;39(11):2029-2035.
  • 8)第22 回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会 研究開発及び生産・流通部会 ワクチンの安定供給について
  • 9)日本小児科学会.知っておきたいわくちん情報No4. 2018.
  • 10)予防接種ガイドライン等検討委員会.予防接種とこどもの健康 8.副反応が起こった場合の対応
  • 11)一般社団法人日本ワクチン産業協会 予防接種に関するQ&A集 2020 p.10
  • 12)厚生労働省 予防接種健康被害救済制度
  • 13)独立行政法人 医薬品医療機器総合機構 医薬品副作用被害救済制度とは?

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