2024.8.23
昨シーズン(2023-2024)のインフルエンザは、国内で1年4カ月にわたって流行が続き、報告数は前シーズンの約4.2倍に達しました。世界的にも、陽性報告数は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)以前を上回る規模で拡大しました。今シーズンは、マスク着用が個人の判断となったことやワクチン接種率の低下、増加する海外との往来の影響でインフルエンザ感染リスクが高まると予測されています。今年のインフルエンザの流行に関連する情報をまとめて解説します。
1.昨シーズン(2023-2024)のインフルエンザ流行状況
1年4カ月続いた異例の流行
国内におけるインフルエンザの流行は、例年11月末から12月にかけて始まるのが一般的です。しかし、昨シーズンは、コロナ禍後3年ぶりに全国的な流行となった2022年12月末以降、流行開始の目安となる1医療機関あたり1.00を上回る報告数が継続していました1)※1。
2023年9月(第36週)時点で既に定点当たり報告数が4.48に達し、12月には33.72まで上昇しました。そして2024年5月(第18週)になってようやく1.00を下回りました1)(図1)。つまり、2022年12月末以降、およそ1年4カ月間の長期にわたり、インフルエンザが流行していたことになります。シーズン全体では、その前のシーズンの約4.2倍となる260万件の報告がありました。
※1 感染症法上、インフルエンザは定点把握対象疾患であり、協力医療機関(定点医療機関)からのみ報告されます。定点当たり報告数とは、対象となる感染症について、すべての定点医療機関からの報告数を定点数で割った値のことで、1医療機関あたりの平均報告数に相当します。
図1 インフルエンザ定点当たり報告数推移
感染症発生動向調査週報速報データ 疾病毎定点当たり報告数 ~過去10年間との比較~2024年第27週(国立感染症研究所) をもとに作成
世界では一昨シーズンの1.2倍の陽性報告
各国から報告された昨シーズンのインフルエンザ陽性検体数※2は、COVID-19流行期以前を上回る報告がありました。前シーズンの約1.2倍(約108万件)に達し、流行の規模が拡大しました(図2)2)。
※2 WHO Global Influenza Surveillance and Response Systemはインフルエンザおよびその他の呼吸器疾患のサーベイランスを実施しており、現在、129の国と地域が参加しています。
インフルエンザ陽性検体数とは、各国から報告されたインフルエンザ検出数(陽性数、陰性数、 型・亜型等)のうち、陽性の数を示しています。
図2 サブタイプ別インフルエンザ陽性数
WHO, Global Influenza Surveillance and Response System (GISRS) 2)インフルエンザ臨床検査サーベイランス情報2024
(2024年7月25日閲覧)より作成
2.今シーズンの流行を読み解くポイント
予防行動の変化
昨年3月からマスク着用は個人の裁量となり、5月には新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置づけがインフルエンザと同じ第5類に変更されました。これに伴い、マスク着用や手洗い・手指消毒などの感染対策への認識や実施頻度が低下しています。
また、近年のインフルエンザワクチンの接種率は、コロナ禍の鎮静化に伴ってか、2020-2021シーズン以降は1歳未満を除く各年齢群で低下傾向にあります(表1)。
これらの行動変化は、インフルエンザ感染リスクを高める要因になると考えられます。
2021年度4):15都道府県(北海道, 山形県, 茨城県, 群馬県, 東京都, 神奈川県, 新潟県, 山梨県, 長野県, 静岡県, 愛知県, 三重県, 京都府, 愛媛県, 高知県)
2022年度3):16都道県(北海道, 山形県, 茨城県, 栃木県, 群馬県, 東京都, 神奈川県, 新潟県, 福井県, 山梨県, 長野県, 静岡県, 愛知県, 三重県, 愛媛県, 高知県)
表1 インフルエンザ予防接種状況3)4)
インバウンド、アウトバウンドの増加
インフルエンザウイルスは世界中に常在しますが、その流行時期には地域差があります。北半球では12月から3月にかけて、南半球では6月から9月にかけて流行がピークを迎えます。一方、赤道周辺では明瞭なピークを形成することなく、通年にわたり発生が見られます。日本では冬季にインフルエンザの流行が生じますが、夏季であっても(南半球の国など)海外からの渡航者によりウイルスが持ち込まれる可能性があります5)。
新型コロナウイルス感染症の世界的流行に伴い、2020年から2022年にかけては海外からの訪問者が低迷しましたが、2023年には約2,507万人の外国人が日本を訪れ、2019年の水準の78%程度までに回復しました(図3)6)。加えて円安の影響で今後更なる訪日外国人数の増加が見込まれることから、海外からインフルエンザが持ち込まれるリスクが高まっています。
図3 訪日外国人旅行者数・出国日本人数6)
観光庁 訪日外国人旅行者数・出国日本人数の推移をもとに作成(2024年3月22日現在)
南半球の流行状況
北半球の次シーズンの流行予測の指標となる南半球のオーストラリアでは、今年7月中旬までに報告されたインフルエンザの届出数は約20万件で、インフルエンザ流行期のピークが早かった2022年を除いた年の同時期における届け出数および過去5年間の平均値※を上回っています7)。南米の数か国、アフリカ東部、アフリカ南部、オセアニアの数か国でインフルエンザウイルスの活動の活発化が報告されており8)、今冬の北半球でもインフルエンザ流行への警戒が必要です。
※2020年および2021年は除く
3.ワクチンに関する情報
経鼻弱毒生インフルエンザワクチンの登場
従来、日本ではインフルエンザの予防接種に注射タイプの不活化ワクチンが使用されてきました。しかし、2023年3月に小児(2歳以上19歳未満)を対象とした鼻にスプレーする新しいタイプの弱毒生インフルエンザワクチンが製造販売の承認を受けました。同ワクチンは既に海外36の国と地域で承認されており、今シーズンからの国内発売が見込まれています9)。従来の注射タイプの不活化ワクチンは、厚生労働省がWHO推奨株をもとに日本国内の流行予測に基づき選定するワクチン製造株が使用されてきましたが、鼻に投与する弱毒生ワクチンはWHO推奨株をもとにメーカーが選定し薬事承認後使用可能となります10)。
このように、投与方法やワクチン株の選定主体が異なることで、インフルエンザワクチンの選択肢が増えたことになります。ご自身やご家族に合ったインフルエンザワクチンについて医療機関で相談してみましょう。
4.今シーズンのインフルエンザ予防
ワクチンによる計画的なインフルエンザ予防を
企業にとって、インフルエンザは従業員の欠勤増加をもたらし、生産性の大幅な低下につながる恐れがあります。
インフルエンザの予防策としては、手洗いやうがいなどの基本的な感染対策に加え、ワクチン接種が有効であると言えます。
実際、米国における2022-2023シーズンの推計では、インフルエンザワクチンの接種により、600万人のインフルエンザ関連の病気、290万人のインフルエンザ関連の医療機関受診、6万5,000人のインフルエンザ関連の入院、そして3,700人のインフルエンザ関連の死亡を防ぐことができたとされています11)。
ワクチンの効果が発揮されるまでに2週間程度を要することから、流行が始まる前の10月から11月にかけてワクチン接種を始めることが推奨されます12)。一人ひとりのインフルエンザ発症リスクや重症化リスクを抑え、大流行を防ぐためにも、今シーズン(2024-2025)に入る前(10月から11月)にインフルエンザワクチンの接種を済ませておくことが望まれます。
あわせて読みたい
参考文献
- 1)国立感染症研究所 感染症発生動向調査 週報(IDWR)
- 2)WHO FluNet Global Influenza Surveillance and Response System (GISRS)
- 3)国立感染症研究所 2022年度感染症流行予測調査におけるインフルエンザ予防接種状況および抗体保有状況
- 4)国立感染症研究所 2021年度感染症流行予測調査におけるインフルエンザ予防接種状況および抗体保有状況
- 5)一般社団法⼈日本感染症学会 感染症クイック・リファレンス
- 6)国土交通省観光庁 訪日外国人旅行者数・出国日本人数
- 7)Australian Respiratory Surveillance Reports 2024 No. 8 – | Australian Government Department of Health and Aged Care
- 8)WHO Global Respiratory Virus Activity Weekly Update N°484
- 9)第25回厚生科学審議会予防接種·ワクチン分科会 予防接種基本方針部会ワクチン評価に関する小委員会 資料2
- 10)第34回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会研究開発及び生産・流通部会 資料1
- 11)CDC Estimated Influenza Illnesses, Medical Visits, Hospitalizations, and Deaths Prevented by Vaccination in the United States – 2022-2023 Influenza Season
- 12)日本小児科学会 日本小児科学会の「知っておきたいわくちん情報」