2022.8.17
新型コロナウイルス感染症が流行した過去2年間は、国内においてインフルエンザの流行はありませんでした。しかし今年は、国際的な人の往来の活発化、マスク規制緩和、人々のインフルエンザに対する感受性増加等の理由から、複数の学会が、インフルエンザ流行の可能性を指摘し、ワクチン接種を推奨しています。
今シーズン(2022/2023)のインフルエンザ対策に関する情報をまとめてお届けします。
過去2年間インフルエンザの流行はなかった
新型コロナウイルス感染症が流行した過去2年間(2020/2021、2021/2022)は、インフルエンザ患者報告数が例年に比べて非常に少なく、インフルエンザの流行はありませんでした(図1参照)。
理由としては、新型コロナウイルス感染症対策として普及した手指の衛生やマスク着用、3密回避、国際的な人の往来制限などが、インフルエンザ対策としても効果的であったためと考えられます。また、インフルエンザウイルスと新型コロナウイルスとの間にウイルス干渉(特定のウイルスの流行によって他のウイルスの流行が抑制される現象)が起こった可能性も指摘されています1)。
図1 週別インフルエンザウイルス分離・検出報告数(2017~2022年)
週別インフルエンザウイルス分離・検出報告数 2017/18~2021/22シーズンより作図2)
今年は、より一層の警戒を
国際的な人の往来の活発化とマスク着用方針の緩和
2022年6月、政府は水際対策において、入国時検査及び入国後待機期間、外国人観光客の入国制限の見直しを行い、制限措置を緩和しました3)。世界的に新型コロナウイルスのワクチン接種が普及している状況を踏まえると、今後は日本と同様に入国制限・渡航制限を緩和する国が増え、国際的な人の往来が活発化することが考えられます。また、「新型コロナウイルス感染症基本的対処方針に基づく対応」で定めるマスクの着用方針も緩和されています4)。
インフルエンザに対する感受性増
日本では過去2年間インフルエンザの流行が認められず、患者数が極めて少数だったことから、インフルエンザに対する感受性者が増加している可能性が考えられます5)。
オーストラリアで患者報告数が急増
日本を含め北半球の冬季のインフルエンザ流行を予測するうえで、南半球の状況は参考になります1)。南半球に位置するオーストラリアでは日本と同様に、過去2年間、インフルエンザ患者の報告数が過去5年のうち最も低い水準でした。
しかし、2022年は4月から過去5年間の平均を大幅に上回る水準で報告数が急増しました5)。(日本と季節が逆のオーストラリアでは、5~10月がインフルエンザ流行期に当たります。)新型コロナウイルス感染症とインフルエンザの同時流行による医療体制の逼迫等が懸念され、オーストラリアの全ての州は、5月下旬から6月にかけて生後6か月以上の住民を対象にインフルエンザワクチンの接種を無料化しました(一部の州で期限延長)6)-11)。
6月下旬以降、報告数は減少に転じています。(2022年7月時点)
図2 サブタイプ別インフルエンザ陽性検体数(海外データ:オーストラリア)
©WHO, Global Influenza Surveillance and Response System(GISRS)12)インフルエンザ臨床検査サーベイランス情報2022(2022年7月25日閲覧)より転載。 元となる情報データを提供いただいたオーストラリアに謝意を表します。
WHOは、翻訳内容または正確さについて責任を負いません。英語版と翻訳版との間に矛盾がある場合、オリジナルの英語版が法的拘束力を有する正式版であるものとします
なお、オーストラリアでの流行では、A香港型(AH3亜型:図2におけるinfluenza(H3))と呼ばれるウイルスが多く検出されており(図2参照)、この傾向は、昨年以降の欧米、中国でも確認されています。このことから、2022/2023シーズンの日本における流行株はA香港型が主流となるという見立てがあります。A香港型が流行すると、インフルエンザによる死亡や入院が増加することが知られているので、特に警戒が必要となります13)。
これらの点に鑑み、今シーズン(2022/2023)においてもインフルエンザワクチンの接種を完了しておくことが、一人ひとりの発症リスク・重症化リスクを抑え14)、流行を防ぐために重要と考えられます。新型コロナウイルス感染症の流行は今後も懸念されるため、医療提供体制を安定化させる点からも、ワクチンで予防できる疾患に関しては積極的なワクチン接種が望まれます。
企業でも積極的な予防接種への対応を
例年11月頃からインフルエンザの流行が始まります。これに先立ち、インフルエンザワクチンの予防接種は10月頃から開始されます。
2020/2021シーズンのように大幅な需要が見込まれる場合には、混乱を防ぐために年齢別優先接種を行うなどの方針が当局より示される可能性がありますので、情報に注意しておいてください。
企業でも基本的な感染対策を継続するとともに、インフルエンザワクチンの事業所内接種や社内周知などの準備を進めましょう。
※インフルエンザワクチンの供給に関する情報は「厚生労働省 ワクチンの供給状況について」 をご参照ください。
あわせて読みたい
参考文献
- 1)一般社団法⼈⽇本感染症学会 インフルエンザ委員会 2021-2022 年シーズンにおけるインフルエンザワクチン接種に関する考え方
- 2)国立感染症研究所週別インフルエンザウイルス分離・検出報告数 2017/18~2021/22シーズン
- 3)水際対策強化に係る新たな措置について(外国人観光客の入国制限の見直し)|外務省 (mofa.go.jp)
- 4)新型コロナウイルス感染症対策 基本的対処方針に基づく対応|内閣感染症危機管理統括庁
- 5)2022-23 シーズンの季節性インフルエンザワクチンの接種に関する 日本ワクチン学会の見解
- 6)Government of New South Wales
- 7)Government of Queensland
- 8)Government of Western Australia
- 9)Government of South Australia
- 10)Government of Victoria
- 11)Tasmanian Government Department of health
- 12)WHO FluNet Global Influenza Surveillance and Response System (GISRS)
- 13)一般社団法人日本感染症学会 提言 2022-2023 年シーズンのインフルエンザ対策について(一般の方々へ)
- 14)予防接種に関するQ&A集2021